■ なぜ刑事事件だけに裁判員制度なのか

私がいまだに疑問でならないのは、なぜ一部の刑事事件にだけ裁判員制度なのかということです。私にはこのような無理方程式の解答はできませんし、多くの国民の皆さんも同様にお考えだと思います。左記の裁判員法第一条をご覧ください・・
「第一条  この法律は、国民の中から選任された裁判員が裁判官と共に刑事訴訟手続に関与することが司法に対する国民の理解の増進とその信頼の向上に資することにかんがみ、裁判員の参加する刑事裁判に関し、裁判所法(昭和二十二年法律第五十九号)及び刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)の特則その他の必要な事項を定めるものとする。」

皆さん、この文章をよく読んでください。おかしいと思いませんか?
なぜ、「刑事訴訟手続に関与すること」が、「司法に対する国民の理解の増進とその信頼の向上に資する」ということになりますか? 司法とは刑事訴訟だけではありません。ましてや、わが国で最も発生件数が多いのは民事訴訟であります。つまり、裁判員制度の設立趣旨を謳ったこれらの文章は、何ら合理性、客観性のないいい加減なものだということです。私たち国民は、このような官僚言葉や屁理屈に翻弄されてはいけません。

私は、今まで民事裁判、行政裁判に関わりを持った経験から、民事と行政裁判にこそ裁判員制度が必要ではないかと考えております。次頁以降に、最高裁判所で公表している最近の資料を掲載しましたのでご覧いただきたいと思います。
この資料をご覧いただいてわかる通り、平成十年から平成十四年にかけて刑事事件数は減少、又は、横ばいの状況であり、民事・行政事件数が増加の一途を辿っていることがよくわかります。民事・行政事件数の増加の原因は、事件原因が過去と比較して増加しているというより、国民の権利意識の高揚や大企業、行政による不法、不当行為の露見、増加によるものだと推測できます。これらのデータから、一部の刑事事件だけに裁判員制度を導入する合理的な理由を見出すことは困難なことであります。そして、立法に携わった国会議員たちからも、国民に対していまだにその説明義務が果たされておりません。

 なぜ、一部の刑事事件だけに裁判員制度を導入するのか?
 なぜ、民事と行政事件に裁判員制度を導入しないのか?
 私たち国民にとって解答不能なこのような無理方程式について、司法と行政、そして、国民の代理人たる国会議員たちは、合理的な理由や根拠を解き示す義務と責任があります。

■ 日本の犯罪捜査の実態を知れば、裁判員にはなれない

「それでもぼくはやっていない」という映画を見ました。この映画の監督は実際の刑事裁判を何度も見て、数多くの取材を自ら行い映画を作ったそうです。
この映画で描かれていた裁判官の有様は、わが国の裁判官の実態でありましょう。「疑わしきは被告人の利益に」という、刑事裁判における原則をものの見事に無視した裁判が行われている実態が赤裸々に描かれておりました。実に空恐ろしいことであります。
 
わが国の刑事事件は、起訴されれば99%が有罪という実態でありますが、日本の警察や検察が優秀なためにこのような数値が出ているのでしょうか? そうではありません。
現在のひどい冤罪事件をみれば、やらせ有罪がかなりあるのではないかと憂慮されます。
なぜこのような信じられない冤罪が作りだされているのか、これはどうも現在の警察、検察の捜査のやり方に問題があるものと考えられます。ここでは、わが国の犯罪捜査の実態
と問題について述べてみたいと思います。
わが国の犯罪捜査について、自白を強要されやすい制度や環境について、欧米諸国と比較しながら説明します。

①逮捕・勾留期間    日本は13日間、欧米諸国は平均3日間
②勾留場所        日本は警察代用監獄、欧米諸国は捜査官とは関係のない拘置所
③取調べについての弁護士立会い    日本は許されない、欧米諸国は当然認められる
④取調べのビデオ撮影、録音等     日本は許されない、欧米諸国は当然実施される
⑤未決保釈    日本はなし、欧米諸国はあり
⑥捜査の目的   日本は自白・供述証拠の獲得、欧米諸国は客観的証拠の獲得

以上のことから、日本の犯罪捜査がいかに被疑者の人権を無視して行われているかおわかりのことと思います。逮捕後勾留している施設についても、日本では24時間いつでも取り調べができるような警察付帯施設で行われております。欧米ではそのような横暴な取調べはできないように、取調べと人権確保を並立して慎重に行われるような制度が確立されております。このように被疑者の人権を無視したわが国の犯罪捜査方法については、国連人権委員会、国際法曹協会などから厳しい批判をされているという現況です。

私たちが裁判員になった場合、このような経過を経て起訴された被疑者の裁判をするということになります。さらに、裁判員は次項で説明する「公判前整理手続きに」参加することもなく、わずか2、3日間の裁判で有罪・無罪、さらに、量刑まで決める裁判に判断者として参加しなければならないということになるのです。
裁判員裁判は、軽犯罪などを除く重要刑事事件だけであり、万が一にでもそれが冤罪であるということであれば、裁判員は同じ主権を持つ善良な同胞国民をゆわれなき犯罪者にしてしまうことになります。このような危険性が排除しきれない現状では、裁判員制度実施よりも、わが国の犯罪捜査方法そのものを欧米諸国並みに被疑者の人権確保が図れる制度に改善・改革されることが優先されるべきであり、裁判員制度は時期早尚と言わざるを得ません。
裁判員になったあなたでさえも、いつか冤罪事件に巻き込まれるかもしれないような犯罪捜査が現に行われている中で・・
それでもあなたは裁判員になりますか?
そして、あなたは自分と同じ国民を裁くことができますか?