■ 裁判員は、公判前整理手続きに参加しない

最高裁判所で作成した裁判員制度広告の映画を見ると、いかにも裁判員裁判が短期間で済むような印象を受けてしまいます。果たして、重大刑事裁判がこれほど簡単に済むものなのでしょうか? 
私には疑問というより、信じがたいことなのです。すでに2本の映画が作成されているようですが(各地の裁判所で貸し出ししています。)、どちらの映画も起訴後の「公判前整理手続き」については一切触れておりません。
ここで裁判員が実際に参加することとなる裁判の公判について欧米諸国と比較してみます。

① 公判の型   
日本は調書裁判であり、捜査機関の作った調書を裁判資料とするため儀式的な裁判
欧米諸国は証人裁判
② 公判審理の時間
日本は捜査機関の作成した調書が真正なものかどうか確認するための作業が公判の主なものとなるので、長時間となる
  欧米諸国では、証人裁判なので短時間
③ 公判の機能・意味
  日本は捜査機関の追認、捜査機関が有罪だとした場合は有罪の再確認作業
  欧米諸国は、真の裁判となり、有罪か無罪かを決することが公判の機能
④ 国民の参加
  日本ではなし
  欧米諸国では、陪審または参審として参加あり

以上のことから、日本の刑事裁判が、起訴されれば有罪99%とされる実態は人権無視の
犯罪捜査を追認することが裁判の役割となっているからなのです。これらの公判のあり方自
体が大きな問題であります。
そして、さらに問題なのは起訴後裁判公判が開かれるまでに行われる「公判前整理手続
き」と言われる公判準備に、裁判員は参加できないということであります。では、この公判前
整理手続きとは、どんな作業を行い、公判にとってどんな意義を持つものなのか説明いたし
ます。
裁判員裁判では、裁判員が選任される前に、争点の整理、証拠の申し出、自白等の証拠
能力の有無・確認、検察官の手持ち証拠の開示、検察官・弁護人の冒頭陳述などが行われます・・これらの一連の手続きが「公判前整理手続き」と言われます。実は、この公判前手続きが、刑事裁判において検察官と弁護人との間で激しいやりとりの行われる裁判の中心であると言えるものなのです。裁判官は、検察官と弁護人のやりとりを交通整理(訴訟指揮という)する中から、裁判官としての被疑者に対する一定の判断というものを形成していくものなのです。
 このような実態を見れば、裁判員が公判から参加する場合に、すでに3人の裁判官は被疑
者に対して一定の判断を形成しているのであり、公判前整理手続きに参加していない裁判員
とは、判断材料とすべき情報量において実に不均衡な状況の中で評議(有罪、無罪を決め
る。量刑を決める。) をしなければならないということになってしまうのです。
このような不均衡、不公平な状況で行われる評議にはどのような意義、目的があるのでしょ
うか? 冤罪かどうか疑念を持つに至ることもなく、あるべき、知るべき判断材料や情報に
接することすらできない状況下で、いかようにして、自分と同じ無罪かも知れない国民を裁
くことができるのか、果たして裁く一人として評議に参加する資格や権利があるものなの
か、実に悩ましい問題であります。

刑事裁判の原則は、「疑わしきは被告人の利益に」ということであります。公判前整理手
続きにすら参加、出席できないということは、評議そのものが「疑わしき」状況から脱却できずに裁判官に誘導された判断になりやしないかと危惧されます。万が一にでも、裁判員制度開始後の裁判で、冤罪者を作ってしまうようなことにでもなければ、これは絶対にあってはならない悲劇であり、裁判員として関わった人間は、耐えがたい苦痛と後悔の念を生涯持ち続けるものとなるでしょう。
公判前整理手続きに参加、出席もしないで、2、3日間で人を裁けるものなのか・・私たちは
冷静に考えなければなりません。
わが国の裁判官は、今までに何人の冤罪者を作ってきたでしょうか? 中には無罪で死刑に
なった方々もいるかもしれません。冤罪者を出した裁判官はどのような責任を取ったでしょ
うか? 
裁判員制度は一時凍結すべきであります。現在の警察、検察などの犯罪捜査のあり方や
システムを十分に改革、改善した後に実施すべきであります。このままスタートすれば、国民自身が罪なき人を犯罪者に祭り上げてしまうこととなってしまいます。
現状のまま裁判員制度がスターとし、私が裁判員に選ばれることがあれば、私は全て無罪に投票するしかありません。

■ 裁判員制度は憲法違反ではないか

2004年4月に成立した、「裁判員の参加に関する刑事裁判に関する法律」、いわゆる裁判員法を巻末に掲載しましたので、ぜひお読みになっていただきたいのです。
私は、この法律は官僚たちが国民統制、官僚支配を強化するために作った法律だと考えております。立法府を司る国会議員が自らの職責をまっとうし、慎重に審議、議論をしていればこんなおかしい法律は成立しなかったはずであります。私たち国民にとっては何も利益になることもなく、害悪ばかりを負担させられてしまう悪法であります。前項でも説明しましたが、公判前整理手続きにも参加せずに、証拠調べの一部だけしか知らされない中で本当に正しい判断、真実を見出せる確信は持てるのでしょうか?

あなたはそれでも、裁判員として人を裁けるのですか?
「疑わしきは被告人の利益に」 、あなたはこの刑事裁判原則を守ることができますか? 
この法律が何を目的として作られたのか、その立法趣旨すら国民にはあるべき説明がされておりません。私たち国民はそんな法律を認めてはいけないのです。

ところで、私は、裁判員制度は憲法違反ではないかと考えております。元裁判官の方々や学識者の方々、弁護士からも、専門的な法律論として憲法違反説が唱えられておりますが、法律の素人である一国民として私の考えを述べさせていただきます。

「公判前整理手続きという裁判の中核をなすことに参加できない裁判員は、有罪・無罪を判断するための判断基準情報を開示されない、隠蔽されているなどの状況を強いられ、公平・公正な裁判に参加できない。」
○ このような裁判は、被告人に一方的に不利益を与える不公正裁判となる可能性がある
○ このような裁判に参加する裁判員たる国民は、制約、束縛された中で判断をするという「意に反する苦役」を背負うこととなり、それは自由及び幸福追求に対する国民の権利 
を侵害することにならないか
○ このような不公正、不公平な裁判に参加し、二者択一の選択をしなければならないことは、国民の思想および良心の自由を保障した憲法に違反するのではないか
○ 評議で、多数決で有罪・無罪、量刑を決するということは、憲法で定めた裁判官の独立性を侵害するのではないか

 本書をお読みの皆さんはどのようにお考えでしょうか?
私は、この裁判員制度について知れば知るほど疑問を持つようになりました。私たちと同じ権利を持つ、同じ日本国民である人間を、わずか二、三日間の裁判で裁くことができるのでしょうか? 公判前の手続きにも参加できずに、公判に提出された証拠や供述の信用性を疑いもなく採用できるものなのでしょうか?
さらに、裁判官の方々に次のことがらについてぜひお聞きしたい・・
もしも、あなた達3人の裁判官が有罪だと考えていても、裁判員全員が無罪と決した場合にはどうするのですか? 
また、裁判員に選ばれた後、評議の場になってから「裁判員制度は憲法違反だと考えるので辞退する」と言われたらどうするのですか?
さらに、初公判で被告人弁護士から、「裁判員制度は憲法違反であるから公判手続きを中止されたい」という主張がなされたらどうしますか?

裁判員制度は、基本法たる憲法との整合性について十分な審議や議論を経ずして作られてしまった法律だと言わざるを得ません。

私はあらためて主張します・・「裁判員制度」は凍結すべきである。

■ 裁判員になって冤罪づくりの手助けをしてしまう

日本の警察、検察当局による犯罪捜査がいかに密室的、閉鎖的な中で行われているかについては前項で説明しましたが、さらに、わが国の刑事裁判は、検察機関の追認作業としての意味合いが強く、裁判所が多くの冤罪を作り出してしまっているという現況であります。
ここで最近問題になった冤罪事件を左記に取り上げましたが、マスコミでも大々的に取り上げられましたので皆さんもご存知でしょう。
この事件は警察・検察当局によるまったくの捏造犯罪でありました。真犯人が捕まったので無罪だということではやり切れません。でっち上げの自白や自供を採用した裁判官にも重大な責任があり、懲戒免職にすべきでありますが、何の責任も取っているわけではありません。
○ 富山連続婦女暴行冤罪事件
この事件は、2002年4月15日に婦女暴行未遂容疑で逮捕された男性が、他の女性も暴行していたとして再逮捕され、裁判で懲役3年に処され刑に服した後に真犯人が見つかった事件である。
 さらに、現在冤罪事件だとして、日本国民救援会(http://www.kyuuenkai.gr.jp/)が支援をしている事件を左記に紹介いたしますが、わが国でどれだけ多くの冤罪事件が存在するのか、そして、どれだけ無実の罪で犯罪者にされた方々がいるのかと思われます。これらはすべて、わが国の犯罪捜査の人権を無視した杜撰さと裁判官の不始末から起こされていることなのです。こんな事件に、私たち国民は裁判員として参加し、裁くことなどできるものではありません。
□ 宮城・北陵クリニック事件
 被告人 守 大助さん
 01年、准看護師の守さんが患者5人の点滴に筋弛緩剤を混入したとして、殺人・殺人未遂罪で起訴。しかし、事件と守さんを結びつける証拠は何もなく、無実を主張したが一・二審で無期懲役。現在、最高裁。

□ 福島・日産サニー事件
 斎藤嘉照さん
 67年、いわき市の日産サニー営業所で宿直員が殺される強盗殺人事件が発生。斎藤さんが犯人として無期懲役。福島地裁いわき支部が再審開始決定、しかし仙台高裁で取り消され、最高裁も棄却。

□山形・明倫中裁判
 元生徒7人
 93年、新庄市立明倫中で男子生徒が体操用マット内で死亡。生徒7人が犯人とされ、不当な取り調べで「自白」。死亡した生徒の遺族が生徒と市を相手の損害賠償で不当判決確定。山形家裁に対し、3人の処分取り消しを求め、再審請求を準備中。7人の無罪を明らかにする運動をすすめる。

□東京・亀戸交番暴力警官事件
 被告人 渡辺 明さん
 04年、江東区亀戸駅前交番前で警察官に道警裏金問題を質問した渡辺さんが「警官に暴行を加えた」として公務執行妨害で起訴。一・二審で懲役7月・執行猶予3年。現在、最高裁。

□東京・東電OL殺人事件
 再審請求人
 ゴビンダ・プラサド・マイナリさん
 97年、都内のアパートで東電OLの死体が発見され、ネパール人のゴビンダさんが犯人とされた。一審無罪、二審で逆転無期懲役、最高裁で確定。05年、東京高裁に再審請求。

□茨城・布川事件
 再審請求人 桜井昌司さん
         杉山卓男さん
 67年、利根町布川で起きた強盗殺人事件の犯人として桜井さん、杉山さんが別件逮捕され、起訴。虚偽の「自白」を唯一の証拠として無期懲役が確定。第2次再審請求審で05年9月、水戸地裁土浦支部が再審開始決定。検察が即時抗告、現在、東京高裁。

□栃木・足利事件
 再審請求人 菅家利和さん
 90年、足利市で幼女が殺害され、1年後菅家さんのDNAが現場に残された精液と一致するとして起訴。無罪を主張したが無期懲役が確定。02年、宇都宮地裁に再審請求。

□埼玉・相上事件
 被告人 相上久夫さん
 00年、上司の車を蹴って傷つけたとのデッチ上げで解雇。解雇無効裁判中の02年、器物損壊罪で起訴。一審で懲役1年・執行猶予3年、控訴棄却、現在最高裁。

□神奈川・デパート地下痴漢えん罪事件
 被告人 河野優司さん
 06年、横浜市内の混雑したデパートの地下で、いきなり痴漢と呼ばれ、県迷惑防止条例違反で逮捕・起訴。06年10月12日、懲役4月・執行猶予2年の不当判決。

□神奈川・古本店主強制わいせつえん罪事件
 被告人 A
 05年、横須賀市内で古本屋を営むAさんが、アルバイトの女性の胸をさわったとして、強制わいせつ罪・暴行罪で逮捕・起訴、現在、横浜地裁横須賀支部。

□福井・女子中学生殺人事件
 再審請求人 前川彰司さん
 86年、福井市で女子中学生が殺され、前川さんが逮捕・起訴。一審無罪、二審で逆転有罪、最高裁で懲役7年が確定。04年、名古屋高裁金沢支部に再審請求。
□静岡・冤罪御殿場少年事件
 被告人 少年4人
 01年、女子高校生の作り話で、強姦未遂事件の犯人として10人の少年が逮捕され、警察の強引な取調べでうその「自白」をさせられるが、無実を主張した4人が刑事裁判で起訴。05年10月、一審で全員に懲役2年の不当判決。現在、東京高裁。
□静岡・袴田事件
 再審請求人 袴田 巌さん
 66年、清水市で起きた強盗殺人・放火事件の犯人として袴田さんが逮捕・起訴。死刑確定。再審請求は地裁、高裁とも不当決定。現在、最高裁。

□三重・名張毒ぶどう酒事件
 再審請求人 奥西 勝さん
 61年、名張市で毒が入ったぶどう酒を飲んだ女性5人が死亡。一審は無罪、二審で逆転死刑判決、最高裁で確定。第7次再審請求で05年4月、名古屋高裁(刑事1部)で再審開始決定。現在、名古屋高裁(刑事2部)。
□滋賀・日野町事件
 再審請求人 阪原 弘さん
 85年、日野町で起きた強盗殺人事件で阪原さんが逮捕・起訴。無期懲役が確定。01年、再審請求。06年3月、大津地裁で請求棄却の不当決定。現在、大阪高裁。
□大阪・東住吉冤罪事件
 被告人 青木惠子さん
      朴 龍皓さん
 95年、大阪市東住吉区の青木さん宅の火事で長女が死亡。青木さんと内縁の夫・朴さんによる保険金目当ての放火殺人事件として起訴。一・二審で2人に無期懲役。現在、最高裁。

□大阪・大阪地裁オヤジ狩り事件
 被告人 岡本太志さん
      藤本敦史さん
 04年、大阪地裁所長に対する強盗致傷事件。アリバイを証明する携帯電話の通信履歴や現場の防犯カメラの映像解析結果から少年らの無実が明らかに。06年3月、一審で無罪。現在、大阪高裁。

□福岡・引野口事件
 被告人 片岸みつ子さん
 04年、北九州市八幡西区引野口の殺人・放火事件で、犯行の物的証拠はないのに、警察が送り込んだ留置場同房者の供述で片岸さんを起訴。現在、福岡地裁小倉支部。

□鹿児島・大崎事件
 再審請求人 原口アヤ子さん
 79年、大崎町で原口さんの義弟が死亡した事件で、警察は殺人事件として原口さんら4人を逮捕・起訴。原口さんは懲役10年が確定。06年1月に最高裁で上告棄却の不当決定。現在、再審準備中。

□米・ムミア事件
 再審請求人 ムミア・アブ・ジャマルさん
 81年の警官殺害の犯人とされ、死刑確定。死刑の執行停止と再審を請求。
なお、これらの資料については、日本国民救援会(http://www.kyuuenkai.gr.jp/)から転載させていただきました。
日本は、先進国の中で最も冤罪発生率が高い国だと考えられます。それは、何度も述べているように「警察、検察機関による犯罪捜査の問題とそれとグルになった裁判所」にその原因があります。裁判員になれば否応なくこのような不公正な仕組みの中に取り込まれていまい、不公正な裁判結果を出す一員となってしまうということであります。結果として、裁判員も冤罪づくりの手助けをしてしまうということになり、無防備な一般国民としてその後心身ともにリスクを背負う可能性があるということになります。

次に、裁判員に選任されて公判が開始された場合、つまり裁判中におけるテレビや新聞等のニュース情報とそれに対する裁判員の問題ですが、裁判員法では一定のガイドライン的な努力目標は決めているものの、具体的な対応や方法については決められておりませんし、日常的に日々氾濫する情報について縛りをかけることは現実的に不可能でありましょう。
しかし、みなさん不思議に思いませんか・・ マスコミで報じられている事件の情報源はどこなのでしょうか?  誰でもわかるように犯罪捜査機関である警察から発表されている情報なのです。それらの事件情報を新聞やテレビで報道することに何の問題があるのでしょうか・・私は何の問題もないと考えます。ただし、マスコミに責任があるとすれば、被疑者は推定無罪という刑事裁判での原則を無視した報道が散見されるということです。裁判員はマスコミの行き過ぎた報道にさえ注意すれば良いことであり、氾濫情報の多くに閉鎖的であるべきとの拘束は逆に違法性のあることだと思われます。裁判員がマスコミ報道等に惑わされることがないようにするというのであれば、犯罪捜査機関そのものが情報源とならない、マスコミに情報を流さないことが最も安全で合理的な方法であります。
私は、現在のような犯罪捜査システムでは絶対に裁判員になりたいとは思いません。なぜなら、罪のない人、私たちと同じ主権を有する善良な国民、同胞を冤罪に巻き込む可能性があることには手を染めたくないからです。
裁判員制度などより、犯罪捜査システムの改善や改革がまず優先されるべきであったのではないでしょうか。
私たちは、司法後進国のまま次世代に日本を引き継いで良いのでしょうか? 警察や検察が恐れられる国は本当に平和な国と言えるのでしょうか? 冤罪を作り出した警察、検察、そして、裁判官はどんな責任を取ったのでしょうか? 杜撰な捜査、脅迫的な自白、そして、検察官の主張をただ追認するような客観性も真実性もない判決を下す裁判官、いつだれが、どのように責任を取ったのか、こんな司法に喜んで参加する国民などいるはずがないのです。
あらためて立法府を司る国会議員に伝えたい・・悪法たる刑事裁判における裁判員制度は凍結すべきであります。国民の主権侵害に繋がる可能性のある制度は存在してはいけないのです。

私たち国民は、裁判員として冤罪づくりの片棒担ぎはできませんし、絶対にしてはならないのです。